日本映画を語る中でこの作品を外すことはできないでしょう。監督はもちろんのこと役者陣に骨がある。宮下さん、石橋さん以外には考えられない作品です。変な表現ですが「生(ナマ)の人間を感じる」映画です。
これは脚本は荒井晴彦だし、監督は神代辰巳だし、石橋蓮司、阿藤快、宮下順子、ポルノとかなんとかいうより、日本映画史に残る傑作。
1979年2月公開作品。石橋蓮司もロマンポルノ
に出ていたのか。1941年8月生まれだからまだ
30代。こんなに若い彼の作品は1974年の「竜馬
暗殺」以来かぁ。。
評価が高いので期待した(?)けど、なんか、ただ
暗くてドロドロしているだけの作品、という印象。
退屈でした。
雨の中、ボロアパートの中で昼間からまぐわる男と女。
赤裸々な生の発露、物語すら捨象される性の営み。
何もかも教えてもろたんやなと言いながら女を責める男。
ウチも歌うような声出させて欲しいと男に求める女。
来し方も行く末も知ろうとはぜず、今だけを求め合う男と女。
享楽でしか生を実感できない日常、暴力が支配する日々に沈殿した渇望、
雨の降る閉ざされた田舎町の片隅で続く男と女の関係。中上健次がエクリ
チュールで目指した「生存の美学」を、神代辰巳がフィルムへと奇蹟的に
昇華させて作品。
多分神代辰巳の日活時代の最高傑作だと思う。
大島渚が神代辰巳の映画には「匂い」があると言っていたが、前半で石橋蓮司が自分の四畳半に迎入れた宮下順子とが炬燵を挟んで向き合っただけで濃密な空気が流れていたと思う。正しくこの空気が単に性愛を描いた作品とを隔てているのだと思う。こうした匂い立つような空気を描きえた監督はそうはいない。
是非見て欲しいフィルムです。
女と男の営みをここまで見せきった映画はまれ。
宮下順子、石橋蓮司ともに絶品。
redocatさん
2018-08-25中上健次
この作品が撮影された当時は中上健次原作の小説が次々と映画化された頃で、
長谷川和彦「青春の殺●者」や藤田敏八「十八歳、海へ」に柳町光男「十九歳の地図」「火まつり」などがあり、
著書以降に登場する村上龍・村上春樹・高橋源一郎らの戦後世代における新しいタイプの文芸作品の映像化の先駆でもあった。
特に中上健次は熊野の被差別部落をルーツとする、
近親相姦も行われる複雑な血縁関係により、
閉鎖的・封建的な土壌から生み出される因習怨念憐憫欲望が塊となって、
霊性を放つ熊野の大森林と枯木灘の波濤が作り出す大自然を背景に、
濃密かつ神話的な世界を描き出した点に特徴がある。
ラテンアメリカの魔術的リアリズムの作家たちと共通していて、
寓話性もありストーリーに破綻もあるので、
この映像化もあまり筋を追っていても意味がない。
その特異な世界にどっぷり浸るのが正しく、
紀伊半島の地図が張られた海沿いの安アパートで繰り広げられる最底辺の世界を、
濡れそぼる淫臭漂うタッチで描いた神代監督の手腕に脱帽。